『“わたしの夢”応援プロジェクト』vol.1 有森裕子 いわき市内視察の様子と講演会の詳細レポートをアップしました

2016/05/24

「いわきPIT」の壇上にて

「いわきPIT」の壇上にて

5月5日、いわきPITにて、チームスマイルpresents『“わたしの夢”応援プロジェクト』第1弾が開催された。これは東北の復興支援を展開するチームスマイルが「ひとりひとり、誰もが持つ将来の夢を、どうしたら実現できるか」をみんなで考えるために行うイベント。第1弾の講師は、元マラソン選手で、オリンピック2大会連続メダリストの有森裕子さん。スポーツNPO「ハート・オブ・ゴールド」の代表理事を務めるほか、これまでにも東日本大震災復興支援イベントに積極的に参加する彼女が、この機会に“いわきの今”を知るために、講演会に先駆け市内の要所も巡った。その模様をレポートする。

朝一番に東京からいわきへとやってきた有森さん。まず目指すのはいわき駅から程近い四倉にある「大川魚店」だ。このあたりは、チームスマイル代表理事・矢内廣の出身地でもある。矢内代表から「このあたりも津波の被害はけっこうありました。昔から“いわき七浜”と呼ばれていて、海が“ウリ”だった地域なんですよ」という話が出る。そして向かう先が鮮魚店ということから、やはり話題は風評被害の現実へと。「ひと言で風評被害だと片付けてしまうのは良くない。風評ではなく、不信や不安を抱いている人が多いのでは」と鋭い意見を述べる有森さん。それに対し、同じく地元出身のチームスマイル村岡顧問は「例えばお米は、“福島の米は逆に安全だね”と言われるくらい、全袋チェックをし、モニタリングしている。実際、福島の米で作ったお酒は海外の品評会で高い評価を受けています。農業も漁業も、地道に皆さんに安心して食べてもらえるような体制を続けていくことが大事ですね」と返す。有森さんも、「美味しければ、気に入ってくれる人は出てきますから、食べたい人からまず食べていくのが、復興への道ですね」と頷く。

そして到着した「大川魚店」では、旬の魚、干物などを興味深げに見学。ただ、社長の大川勝正さんから「魚は回遊していますし、漁場は一緒。“○○産”というのは、どこに水揚げするかの違いでしかありません。そうするとやっぱり、福島は避け、千葉や茨城の漁港に行く傾向にありますよね」と厳しい現実が語られると、「まだ難しい面がたくさんありますね」と顔をしかめる有森さん。「違いは水揚げの場でしかないというなら、消費者の意識の問題。これはいい加減、どうにかなって欲しいですね。誰が、何を言えば、この流れは変えられるんだろう・・・」。

「大川魚店」にて。左から、有森裕子さん。チームスマイル・矢内代表。大川魚店・大川社長。

「大川魚店」にて。左から、有森裕子さん。チームスマイル・矢内代表。大川魚店・大川社長。

続いて向かったのは「四倉港 うまいもんや やまかく」。こちらでは地元の幸をふんだんに使ったランチを頂いた。中でも地元の魚“メヒカリ”が美味しいと、有森さんはもちろん、スタッフからも感嘆の声が上がる。海沿いにあるこの店は目の前に建設中の防波堤が広がる。有森さんからは「防波堤の建設は、場所によっては賛否両論あると聞きましたが、こちらではどうですか?」と、またまた鋭い質問が。やはりこの地でも、防波堤によって景観を崩したくないという意見もあるそうだ。そういった意見と折り合いをつけ、どのように“減災”していくか・・・、難しい現実が突きつけられている。ゲストには丸和製氷の鈴木英美社長を迎え、九死に一生を得た震災当時の生々しい状況について、お話を伺った。

「やまかく」前の防波堤を背に。矢内代表と有森さんに当時の様子を語る、丸和製氷・鈴木社長(右から2番目)。一番右は、チームスマイル・いわきPITの村岡顧問。

「やまかく」前の防波堤を背に。矢内代表と有森さんに当時の様子を語る、丸和製氷・鈴木社長(右から2番目)。一番右は、チームスマイル・いわきPITの村岡顧問。

その後「鬼越応急仮設住宅」を車窓に見ながら、「とまとランドいわき」へ。いわきは日照時間が長いことから、トマトの名産地であるそうだ。広々としたスペースで栽培されているトマトを実際にもいで、その場で食べてみる。有森さんからも「味が濃いし、フルーティ!」と笑顔が飛び出した。ここのトマトも、震災後は“不信”から出荷見合わせになり、廃棄をしていたとのこと。だが出荷できない分を避難所で配布したところ、その味を求め、新たな客がついた。逆境を力に変える底力だ。「震災のおかげで、作物をトマト中心に絞る決意ができたのも、良かった」というお話も。

「とまとランドいわき」にて

「とまとランドいわき」にて

「とまとランドいわき」にて

さらに、「磐城桜が丘高校」へ向かい、陸上部を訪問。元オリンピック選手の訪問に、少し緊張気味の高校生たちだったが、有森さんの巧みな話術につられたか、次第に彼らからも積極的に質問が飛び出す。曰く、「オリンピックに行った時は、どんな気持ちでしたか?」「自己ベストはどうしたら出せますか?」「試合で走っていて苦しいときは、何を考えていましたか?」・・・陸上部の生徒らしい質問だ。有森さんはそれにひとつひとつ、真摯に丁寧に答えていく。そして、自分は高校生の時は散々な成績だった、でもあの時があったからこそその後がある、無駄な時間なんてない、と高校生たちに語る。“あきらめなければ、何でもできる”と。これは、この日の講演会のテーマにも、繋がっている。

「磐城桜が丘高校」陸上競技部をサプライズ訪問。陸上部ならではの質問も。

「磐城桜が丘高校」陸上競技部をサプライズ訪問。陸上部ならではの質問も。

「磐城桜が丘高校」陸上競技部をサプライズ訪問。陸上部ならではの質問も。

有森さんが語るのは、“努力は必ず報われる”という単純な夢物語ではない。「目標を強く持つこと」「そのことで、自分に足りないもの、やらなければいけないことが見えてくる」「そして“自分がやりたいこと”を自ら発することで、人を引き寄せていく。まわりの人が、どんどんみんなの力になっていく」。この、磐城桜が丘高校でも語られた内容を、さらに具体的に、有森さんの高校時代や、実業団時代のエピソードを絡めて語られたのが、『思いは強く。夢はかなう。』と題した講演会。大人から学生まで、幅広い層が耳を傾けたこの講演会で、「人間はどんなことも力に変えられる。もちろん喜びが力になれば一番良いが、思いもよらぬことが力になることもある。好きか嫌いかではなく、出会えたものに対し、これをどう活かそうか、自分がどうしたいのか、と考えて欲しい」と自らの体験を通し、語った有森さん。その言葉はアスリートへの教訓であるとともに、どんな人にとっても、人生を前向きに生きるためのエールでもあった。

講演後、自らお客さんをお見送りする有森さん。サインにも快く応える。

講演後、自らお客さんをお見送りする有森さん。サインにも快く応える。

講演後、インタビューに答える矢内代表と有森裕子さん。

講演後、インタビューに答える矢内代表と有森裕子さん。

この日の模様は、5/29(日)16:30からテレビユー福島にてご覧頂けます。(放送対象地域は福島県全域のみ)
(番組タイトル:「チームスマイル“わたしの夢”応援プロジェクト  有森裕子inいわきPIT 夢をあきらめない」)