3.11復興祈念特別イベント「CINEMA MUSIC JAM for東北@豊洲PIT」が開催されました
2015/3/16(2015/5/12 改訂)
忘れられない、忘れてはいけない記憶というものがある。例えば、3月11日が近づいてくると、2011年のその日に自分がどこで何をしていたかということをブログやfacebookに書き込む人が増えてくるのもそのことのせいだろう。その記憶は、悲しみや憤り、あるいは戸惑いや不安の色で染められている場合も少なくないけれど、だからこそ忘れられない、忘れてはいけないのだ、とも言える。
その日から4年目の3月11日、豊洲PITでは“CINEMA MUSIC JAM for 東北”と題したイベントが開催された。会場となった豊洲PITは、エンタテインメントを通じた東日本大震災の復興支援活動を続ける「一般社団法人チームスマイル」が運営するライブハウスで、昨年10月にオープンした。“PIT”とは「Power Into Tohoku!」の略称とのこと。東北にチカラを!しかもそれは、人の気持ちを縛ったり抑え込んだりする「力」ではなく、ワクワクドキドキさせるエンタテインメントのチカラを届けようというのである。PITはその活動の拠点であり、この夏には福島県いわき市、冬には宮城県仙台市と岩手県釜石市に同様のライブハウスが開設される予定だ。
この日のイベントは、タイトルからわかる通り、映画音楽がテーマ。PITの活動に賛同したアーティストたちが、ジャンルを超えて集まり、それぞれの個性を際立たせる印象的なパフォーマンスを披露した。
まずは、ボーカル&トランペットのTOKUをリーダーとする4人編成のバンドが登場。ジャズ史上に名を残す偉大なるサックス奏者、ジョン・コルトレーンのカバーで知られる「マイ・フェイバリット・シングス」からスタートした。この日のハウス・バンドも務めたこの4人の演奏は、プレイヤーとしてのきらめきを随所に押し出すジャズ・マナーを基調にしながら、ボーカル・ナンバーでは歌の味わいを浮き上がらせる伴奏でボーカリストをしっかりとサポートした。3曲目の「She」には溝口肇のチェロが加わり、チェロならではのふくよかな響きで映画「ノッティグ・ヒルの恋人」のストーリーを思い出させるロマンチックな世界を描き出した。
ここで、いったんバンドは退き、代わりにジャズ・ピアニストのジェイコブ・コーラーが登場。まず溝口とのデュオで「ゴッドファーザー愛のテーマ」を聴かせ、さらにはジャイコブのソロで映画「スティング」から「エンターテイナー」を披露。イケメン・ピアニストとしても最近注目を集める彼だが、ユニークなアイデアを生かしたピアノ・アレンジと演奏もやはりオーディエンスの気持ちを大いに刺激したようだ。
続いて、ボーカル&バイオリンのサラ・オレインが加わり、ジャイコブ、溝口とのトリオによる「ニューシネマ・パラダイス」のテーマを聴かせた後は、バンドが再び登場してサラをフィーチャーしたコーナーへ。流麗なバイオリンの演奏とエモーショナルなボーカルのコントラストが印象的で、とりわけ「アナと雪の女王」からの大ヒット曲「Let It Go」では客席からもひときわ大きな拍手がわき起こった。
次に登場したのは、ボサノバ音楽の日本の第一人者、小野リサ。その包容力に満ちた歌声と、ステージ上の揺るぎない存在感によって、会場はたちまち彼女の世界になってしまった。そして、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」や「オーバー・ザ・レインボウ」といったスタンダード曲を歌っても、やはりそこに彼女のオリジナリティーがはっきりと感じられるパフォーマンスで、さすがと思わせた。
最後のゲスト・アーティストはゴスペラーズ。彼らの代表曲のひとつ「ひとり」をアカペラで聴かせた後、昨年の映画公開時には大きな話題を呼んだクリント・イーストウッド監督作品「ジャージー・ボーイズ」から「シェリー」をカバー。ボーカル・グループの大先輩でもあるフォーシーズンズのオリジナルへのリスペクトも感じさせながら、同時にゴスペラーズならではのコーラス・ワークの魅力も感じさせる素晴らしいパフォーマンスだった。さらには、復興支援というもうひとつの重要なテーマを踏まえた選曲で、映画「うた魂♪」から「青い鳥」、そして彼ら自身が被災地を訪ねた際に感じた思いを表現した「BRIDGE」と続けて、オープニングからここまでの演奏でつながってきた会場の気持ちが確かに東北に向けられていくようだった。
本編最後は、喜劇王チャップリンの手になる名バラード「スマイル」を出演者全員で歌って、あらためてPITの活動に込められた思いが浮かび上がった。アンコールは、まずジェイコブと溝口のデュオによる「ふるさと」。4年前の震災発生時にはラジオやYouTubeでもさかんにこの曲のいろいろなバージョンが流れたが、この日は二人の演奏をバックに、東北の人々の表情を捉えた写真が次々と映し出され、自らのふるさとの復興に励む人たちの思いが逆に東京の会場を包んだかのようになった。そして、大団円は再び出演者全員でサイモン&ガーファンクルの大ヒット曲「明日に架ける橋」を演奏。“君の涙は僕が乾かしてあげる。気持ちが荒んだ時には僕がそばにいるよ”と歌う、その思いは、この日PITに集まったすべての人々に共通する思いだろう。
会場を埋めた約1000人の聴衆が、映画音楽ならではのロマンティックな世界の向うに東北の人たちの穏やかな暮らしを思い、穏やかな幸福を願った一夜だった。
●取材/文:兼田達矢
●撮影:武 裕康
■ セットリスト
- 1. マイ・フェイバリット・シングス (『サウンド・オブ・ミュージック』)
<TOKU(FH)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)> - 2. 楽しみはこれから (『ジャズ・シンガー』)
<TOKU(FH, vo)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)> - 3. She (『ノッティングヒルの恋人』)
<TOKU(FH, vo)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)> - 4. ゴッドファーザー愛のテーマ (『ゴッドファーザー』)
<溝口(Vc)、ジェイコブ(pf)> - 5. The Entertainer (『スティング』)
<ジェイコブ(pf)> - 6. New Cinema Paradiso (『ニュー・シネマ・パラダイス』)
<溝口(Vc)、ジェイコブ(pf)、サラ・オレイン(vo, vn)> - 7. I Dreamed a Dream ~夢やぶれて (『レ・ミゼラブル』)
<宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)、サラ・オレイン(vo, vn)> - 8. 美女と野獣 (『美女と野獣』)
<TOKU(vo)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、サラ・オレイン(vo)> - 9. Let It Go (『アナと雪の女王』)
<TOKU(FH)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、サラ・オレイン(vo)> - 10. 好きにならずにいられない(『ブルーハワイ』)
<宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)、小野リサ(g, vo)> - 11. イパネマの娘 (『イパネマの娘』)
<宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)、小野リサ(g, vo)> - 12. Fly Me to the Moon (『スペース・カウボーイ』)
<TOKU(FH)、宮本(pf)、楠井(b)、小野リサ(g, vo,)> - 13. Moon River (『ティファニーで朝食を』)
<小野リサ(g, vo,)> - 14. ひとり(アカペラ)
<ゴスペラーズ(vo)> - 15. Sherry (『ジャージー・ボーイズ』)
<TOKU(FH)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、ゴスペラーズ(vo)> - 16. 青い鳥(『青い鳥』)
<TOKU(FH)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)、ゴスペラーズ(vo)> - 17. BRIDGE(『』)
<宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、ゴスペラーズ(vo)> - 18. Smile(『モダン・タイムス』)
<TOKU(FH, vo)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)、ジェイコブ(pf)、サラ・オレイン(vo)、小野リサ(vo)、ゴスペラーズ(vo)> - アンコール1 ふるさと
<溝口(Vc)、ジェイコブ(pf)> - アンコール2 明日に架ける橋
<TOKU(FH, vo)、宮本(pf)、楠井(b)、山田(ds)、溝口(Vc)、ジェイコブ(pf)、サラ・オレイン(vo)、小野リサ(vo)、ゴスペラーズ(vo)>
※ご入場時に頂いたドリンク代(¥500)は東北支援の為に活用されます。