社長からのごあいさつ

ぴあ株式会社代表取締役社長 矢内 廣(Hiroshi Yanai) ぴあ株式会社代表取締役社長 矢内 廣(Hiroshi Yanai)

「大阪・関西万博」や「東京・世界陸上」の成功を受けて

 皆様には平素よりご高配を賜り、厚く御礼を申し上げます。お陰さまで、当グループの当連結会計年度におきましては、営業利益、経常利益、純利益ともに前年度を大幅に上回る推移を辿っております。当社シンクタンクのぴあ総研の調査でも、国内集客エンタテインメント市場はすでにコロナ禍前を遥かに上回る規模に復調し、この勢いは今後も右肩上がりに継続するものと想定しております。特にスポーツ分野の盛り上がりや大規模音楽フェスの開催、演劇や来日アーティスト公演の活況などにより、取扱高ベースでの売上は1,500億円を超え、過去最高水準となりました。
 また、当社がチケッティング業務を全面的にお手伝いした「大阪・関西万博」や「東京・世界陸上」も大盛況のうちに閉幕し、「ぴあカード」や「ホスピタリティチケット」など、チケット流通ビジネスを核とした周辺事業も順調に成長しました。こうした活況を受け、一昨年発表した3ヶ年中期経営計画の目標は、大きく上回って達成される見通しです。コロナ禍の影響による多額の累損も解消され、中間決算期には、通期予想の上方修正も行いました。同時に、6期ぶりの復配も実現できる運びとなりました。誠に遺憾ながら無配を続けざるを得なかった期間中も、温かくご支援くださった皆様に、心から御礼を申し上げます。

21世紀の“感動のライフライン”の構築を目指して

 中期計画の達成に向け、基幹事業であるチケット流通、興行企画制作、ぴあカード会員、アリーナ運営、メディア創出等の収益拡大と並行し、「ホスピタリティ事業(体験型・高付加価値チケットの販売)」、「グローバル・イベント事業(国際的分野での業務受託)」、「デジタルメディア・データマーケティング事業」等、コロナ禍中に準備を進めてきた新規事業群への戦略的投資を継続した結果、いずれも順調な成果を挙げ始めています。また、稼働の好調な「ぴあアリーナMM」、「豊洲PIT」、「仙台PIT」に続き、2026年春には、東京・八重洲に新劇場のオープンも決まり、東京・渋谷ではライブハウスの運営も開始しました。今後も、全国を視野に入れた新たなヴェニューの開発を進めてまいります。
 一方、「神宮外苑花火大会」や「ぴあフェス」、「パンのフェス」など、大規模興行の企画・運営・主催事業も積極的に進めております。多様なジャンルのイベントを創出し、様々なタイプのホールで開催することで、エンタテインメントの作り手と受け手、生み出す側と楽しむ側を一気通貫に結ぶサービスが可能となります。当社ではこれを、「感動のライフライン事業」と呼んでいます。コンテンツの創出からプロモーション、チケット流通、ホール・劇場運営までを一手に担うとともに、コミュニティの醸成、文化や人材の育成、業界へのソリューション、地域の活性化等を通じ、集客エンタテインメント産業全体のサステナビリティ化にも貢献したいと思っております。加えて、高度な専門性を有するIT人材を採用する「PIA TECH LAB(ぴあテックラボ)」を札幌市に開設し、システム開発の内製化をスタートしました。同時に、エンタメ業界を志す学生を対象にした就活イベント「エンタメ業界研究フェス」をぴあアリーナMMで主催するなど、人材の発掘や育成、業界の持続性の拡充にも注力しています。

映画「国宝」の記録的大ヒットの背景にある、息の長い営み

 今年で47回目を数えた自主製作映画のコンペティション「PFFアワード」では、今回も若い才能の台頭が目立ちました。昨年からは、日本航空の国際線・国内線で、過去の入選作品が機内上映プログラムに加わり、新人監督たちにとって、貴重な上映機会が増えました。作品は定期的に入れ替わりますので、フライトの際はぜひお楽しみください。
 また、映画の未来を拓き、世界へと羽ばたこうとする若く新しい才能に対して贈られる「大島渚賞」は今年で第6回を数え、「ナミビアの砂漠」で注目を集めた山中瑶子監督に授与されました。今や、PFF出身のプロの映画監督は200名近くに達していますが、今年の映画界で記録的な大ヒットとなった「国宝」の李相日監督も、26歳の時に応募した作品が当時のPFFアワードでグランプリを受賞したことが、監督としてのデビューの第一歩でした。今後もこうした取り組みを通じて、「映画の新しい才能の発見と育成」を継続し、日本の映画界の持続的発展に寄与していきたいと思っております。

17項目のSDGsに、“18番目”の目標を

 ぴあ総研では、日本で開催されている興行データを正確に集計し、集客エンタメ市場の変遷を発表し続けています。今やその分析や予測値は、世の中の市況とその行方を量る重要な経済指標の一つとして、広く活用されています。PFFとともに、収益には直結しない活動ですが、経済性の追求と同時に、こうした趣旨性の体現も当グループの企業理念の核となっています。私たちは、過去の大震災やコロナ禍などを経て、集客エンタメには人々を元気づけたり、勇気づけたりする力があることを実感してきました。これらは同時に、地域の活性化や地方創生にも大きな貢献を果たしています。ぴあグループでは、エンタメは決して不要・不急なものではなく、世の中や社会にとって不可欠な存在であることを示すために、SDGsの18番目の目標として、 “Making Life and Society rich with Art, Culture, Entertainment and Sports.”(文化芸術・エンタテインメント・スポーツで、心豊かな暮らしと社会を)を提唱しています。エンタテインメントによる感動は、ひとりひとりが毎日を生き生きと暮らすための、いわば「酸素」のようなものだと私たちは考えています。事業の拡大とともに人的資本経営にも注力し、生産性の向上や残業の削減はもとより、ぴあならではの生き生きとした働き方改革や環境の改善を進め、全社一丸となって企業価値の向上を図ってまいりますので、今後とも、皆様からの温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

(2025年12月掲載)